吉野スギは戦前から戦後の一時期にかけて、
秋田スギや木曽ヒノキとともに産地名がそのまま銘柄を表し、
銘柄材=良質材=高価な材としての意味合いが強かったです。
吉野スギが産地銘柄材として高価で取り引きされたのは、
江戸時代に入って以後、その林業経営が密植、多間伐、長伐期で表される
集約的な林業技術を取ることによって、材の経済価値を高めたことによります。
この背景には数寄屋風書院造りの発達に伴うスギ丸太、小丸太の需要があり、
また酒樽、すなわち樽丸の生産を目的とした年輪幅が狭く、均一さが求められ、
さらに完満通直な用材を得ることができる原木の生産に力を入れたからです。
結果として吉野スギという銘柄が、商品の品質を示す一つの指標となりました。
ところで産地銘柄は原木丸太に関するものと、
ここから採材される個々の製材品についてのものとはわけて考える必要があります。
原木では一本の原木からは種々のレベルの品質の製材品が採れるので、
高く評価される製材品の採れる割合によって評価されることになります。
これに対して、製材品では個々の商品の品質が評価されます。
そこで銘柄原木から採られた製材品でも種々の品質水準の材が混じっているので、
これを一つの銘柄でまとめて評価する意味は薄いです。
このように従来の産地銘柄は
製材品の品質を必ずしも示すものではないことを理解しておく必要があります。